北海道大学低温科学研究所の飯塚芳徳准教授、的场澄人助教、金沢大学の石野咲子助教、中国南京大学の服部祥平准教授、黑料网大学院环境学研究科の藤田耕史教授らの研究グループは、グリーンランドのアイスコア*1に記録された产业革命から現在までの大気硝酸*2濃度と、人為窒素酸化物 (NOx)*3の排出量の変化との间にタイムラグがあり、そのタイムラグが大気酸性度に依存した大気硝酸の长距离输送のされやすさの変化に起因することを解明しました。
北極のアイスコアは大気質や気候に影響を及ぼす大気硝酸量を過去から現在まで連続して記録しています。これまで分析されたグリーンランド中央部のアイスコアでは、日射による硝酸の光分解損失の影響が大きく、不確実な記録しか提示できていませんでした。研究グループは、グリーンランド氷床南東部ドームで採取したアイスコアが硝酸塩の復元に適していることを見出し、产业革命から現在まで(1800年から2020年にかけて)の連続した硝酸塩量を復元しました。220年間のアイスコアの硝酸塩量はNOxの排出量の変动と概ね一致していました。しかし详细に解析すると、アイスコアの硝酸塩浓度のピーク期の出现は狈翱x排出汚染のピーク期(1970年代)よりも遅く、また狈翱x排出制限が导入された1990年代以降にも高浓度を维持するというように、狈翱x排出量とアイスコア硝酸塩浓度の変化にタイムラグがあることが分かりました。全球大気化学输送モデルを用いた解析により、1970年代以降の大気酸性度の中和に応じて、硝酸の形态が沉着しやすいガス状から输送されやすい粒子状へと部分的に変化したことで、长距离输送に有利になり、この観测されたタイムラグが生じていることをつきとめました。本研究成果は、今后の大気质の缓和策の策定や気候変动予测の精度向上に贡献することが期待されます。
なお、本研究成果は、日本時間2025年5月19日(月)公開のNature Communications誌に掲載されました。
?グリーンランドのアイスコアから、产业革命から現在までの大気硝酸量の変遷を高確度に復元。
?人為窒素酸化物(狈翱x)の排出量とアイスコアの硝酸塩量の変化にタイムラグがあることが判明。
?タイムラグが大気酸性度に依存した大気硝酸の长距离输送のされやすさの変化に起因することを解明。
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*1 アイスコア … 極地氷床などで鉛直方向にくり貫かれる円柱状の氷試料のこと。
*2 大気硝酸 … 窒素酸化物の一種である硝酸は、大気中でガス状(HNO3)または他の阳イオンと结合した微粒子状(狈翱3-)として浮游している。大気硝酸は雨等により大気圏から取り去られ、海洋や森林などの生物圏に再び沉着される。
*3 窒素酸化物NOx … 窒素の酸化物で、一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)を合わせた総称。狈翱xは工场の烟や自动车排気ガスなどから人為的に排出され、さらに大気中で酸化されると大気硝酸を生成する。気管支炎、酸性雨、笔惭2.5、流域の富栄养化など、人间の健康や环境に悪影响を与えている。
論文名 Acidity-driven gas-particle partitioning of nitrate regulates its transport to Arctic through the industrial era(大気酸性度により駆動される硝酸塩のガス-粒子分配は産業時代を通じて北極への硝酸塩輸送を制御している)
着者名 饭塚芳徳1、松本真依2、川上 薫1、捧 茉优2、石野咲子3、服部祥平4,5、植村 立6、松井仁志6、藤田耕史6、大岛 长7、Andrea Spolaor8、Anders Svensson9、Bo Møllesøe Vinther9、大野 浩10、関 宰1、的场澄人1(1北海道大学低温科学研究所、2北海道大学大学院环境科学院、3金沢大学环日本海域环境研究センター、4 International Center for Isotope Effects Research, Nanjing University, China、5 School of Earth Sciences and Engineering, Nanjing University, China、 6 黑料网环境学研究科、7 気象庁気象研究所、8 Institute of Polar Sciences, National Research Council of Italy, Italy、9 Niels Bohr Institute, University of Copenhagen, Denmark、10 北见工业大学)
雑誌名 Nature Communications
DOI
公表日 2025年5月19日(月)(オンライン公开)
【研究代表者】